「ヒメシャガの花が音を立てて開くのを目撃してしまったある朝の風景」
著:中島勝大|2008.4.3
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こんな長いタイトルはどうだろう?僕はかなり気に入っている。声に出して読んでもらいたい。何ともリズミカルでトントンと、何度も口にしたくなるタイトルではないだろうか。言いやすい早口言葉のようだ。内容に入る前に、タイトルを書いただけでにんまりしてしまった。早く内容に入らなければならないとは思いつつ、ついまたタイトルを音読して自分だけで満足してしまっている。ここまで、書き初め、しかもタイトルで自己満足してしまうのは、初めてである。あきれられない内に内容に入ろう。僕の兄はある意味、天才なのではないかと思う。兄は、山歩きが好きで愛犬達を連れて、近所の野山を一日がかりで歩いて来ては、家族へのみやげに、めずらしい野バラやアジサイ、キキョウなどを取って来て、母に渡し、自分ではそれについて語らずそれらを見て「わぁ!」と喜ぶのは、他でもない僕なのである。母が僕を呼びつけ「ほら!お兄ちゃんが取って来たヒメシャガきれえだろう!」と見せるのである。ある時は和紙で作ったかのような、見事に形の整ったキキョウ。僕は造花ではないかと、裏を確認したくらいだ。またある時は、小さな椿を想わせるような、外側の花びら二枚にだけ赤い模様の入ったバラ。同じバラでも、ミニバラよりも小さく、真紅のベルベットを小さくちぎって丸めたものが、針金のように細かく分かれた技に、ポンポンとくっついている、手の平より小さいその一枝に10個もの花をつけたものや、根つきの、これも小さい一重の紫のバラ。どれ一つとして当たり前のものがないである。めずらしいから、目にとまり取ってくるのだろうが、実家に戻って間もない頃の僕は、もう目を見張るばかり。東京の花屋では見た事のない、おそらく名前もないのではと思ってしまうような花達。そういうめずらしい花達を捜す天才と、兄の事を呼びたいのだ。母や父は「きれえだ」と喜んでいるが、僕ほど驚いてはいない。という事は、やはり兄は、当たり前のように当たり前ではない花達を見つけ続けているのだろう。兄が山へ行った次の日の朝には、必ずめずらしい野の花が居間のこたつの上の、僕が産まれた頃から使っているであろう変な模様のついたコップに当たり前のようにさしてあるのである。そして僕は、トーストにマーガリンとジャムをベタベタつけながら、「きれえだろ?」という母の声を聞きつつ、「何じゃ、この花?!」と心の中で思うのである。ベタベタトーストをかじりながら、台所へと姿を消した母に「なんていう花?」と聞くと、台所で目玉つぶれ焼きを作りながら「ヒメシャガだよ」と教えてくれる。「ふ〜ん」とその、オレンジ色の中心から白、そしてグレーがかったうす紫に広がる複雑な形の花を見ていたその時である。僕の見ている目の前30cmの所で咲いている花の、一つ上のつぼみが「ポン!」音を立てて開いたのである。何だ?!。僕は目をパチパチさせながら、口をもぐもぐさせながら、今、目の前で起こった事について考えた。ヒメシャガのつぼみが「ポン!」と音を立てて開くのを、僕は目の前30cmの所で目撃したのである。そんな所を見られる奇跡は一生に一度くらいではないかと朝から心臓がバクバクした。そしてそれを、母に言うべきか一瞬迷った。なぜなら、その頃僕が幻聴に悩まされていた事を家族も知っていたからだ。隠しておけない僕の性格から、家族にはすべて相談していたのだ。そんな事を母に言ったら、幻聴だけじゃなく、幻覚もかと嘆かれたくはないと思ったのだ。しかし、あまりの感動に、台所から目玉つぶれ焼き(これは僕の注文である)を持って来て、僕の前に「はい!」と置く母に、報告せずにはいられなかった僕は、なるべく平静を装って「今ね、このヒメシャガがね、ポン!って開いたの」と言うと、以外にも母は、「そう、ああこれね 開いてなかったもんね」と何でもない反応。何をバカな事をと、あしらわれたのかと、少しムッとして、ちょっと無謀な賭けにでた。予てから不思議に思っていた揺れ動く花達について持ち出してみた。「今みたいに、ポンッて音立てて開くこともあれば、ゆらゆら揺れたり、ゆっくり動いたりするのも見た事があるんだけど?」幻覚だと指摘されるのを覚悟しての発言だったにもかかわらず、母は、「そうだよね」と普通の返事。はぐらかすな!という思いから、さらに「エ?!花は動くものなの?」とつっこむと「そうだよ、ほら、その鉢の草、少しずつ動いてるだろ」という母の発言に、見ると、確かに微妙に揺れて見える。さらに母は、「花や草は動くものなんだよ」と言い切ったのだ!その上、その揺れ動く数mmの草達を目を細めて眺めながら「皆、生きてるんだねぇ」とつぶやいた。僕はまたしても、「ふ〜ん」と、注文した目玉つぶれ焼きを食べながら、ヒメシャガと母の顔を交互に疑わしげに見続けたのであった。母の顔には、僕をあしらっている様子は見られなかった。母が洗いものをしに台所へ姿を消すのと入れ違いに、朝から庭の手入れに精を出していた父が一休みしに、縁側から居間へ上がって来た。「おはよう」と言葉を交わし、自分でインスタントコーヒーを入れる父に「お前も飲むか?」と聞かれ、あわてて「うん、ありがとう」と言い、言われるままに僕もコーヒーを入れてもらった。実家に戻って間もない頃だったので、いろんな事がわからないまま、してもらうままに、ありがたくしてもらっていた。コーヒーを飲みながら父の一言めが「ほら、あの鉢植えのバラ!めずらしい色だろ」と窓側に置かれた一重の紫のバラを指差しながらタバコに火をつける。僕も同じ箱のタバコを一本もらい火をつけながら、「そうだね、お兄ちゃんが取って来たの?」と聞いたその時である。その10cm程の茎の先端の緑色のようじくらいの新芽が3cm程、ぴょんと伸びたのである!僕は息を飲んで無言で父を見た。父は「あれ?」と立ち上がりそのバラの鉢の所へ近づき不思議そうな顔。そして「今・・・?」と言葉を失った。ここぞとばかり僕が「今、見たよね、ぴょんて・・・」。首をかしげながら父が「う〜ん・・・」と座ってコーヒーを飲む。僕はタバコを吸いながら父の反応を見るだけで我慢した。掻き立てるのは、自分の立場を悪くするだけと思ったので、さっきのヒメシャガが、「ポン!」と開いた話をしたが、父の耳にそれが届いていたかどうか。何度も首をかしげコーヒーを飲みほし、タバコを持ったまま又、縁側から庭へと出て行った。その当たり前ではない花達を取って来た当の本人、兄は、朝からどこかへ出かけて行ったらしい。一人居間に残された僕は、今、ここで起こった事と両親の発言について、父のタバコの箱から又一本取って、父のライターで火をつけ深く吸い込みながら、なぜか勝ち誇りたいような、しかしその花達の中に一人残された事への不満を、父が入れてくれたコーヒーで飲み下した。そして母に、「これ、二階へ持って行っていい?」と聞くと、母が「いいよ、それはあんたにって、お兄ちゃんが言ってたよ」というので、僕はヒメシャガのコップを持って二階の自室へと上った。テーブルの上に置き、しばらく眺めて物思いにふけった。やがて、花の後ろの壁に貼ってあった、数年前に行なった「2日遅れのクリスマス」というタイトルの自分のライブのポスターに目が移った。そこには、僕がデザインしたヒメシャガの花にそっくりな、色形の結晶が描かれていた。心臓がバクバクした。(知ってるでしょ、皆にも配ったあのチラシ!)
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